望まれた役割をこなす社員とAI

のぞまれた役割をこなす社員とAIの共通点とちがい

「AIが全部やってくれたら、人件費かからなくていいよなぁ。」
経営者はとにかく安い労働力を求めているので、この発言は合理的と言えます。
もちろん、聞いた社員の心は平穏ではいられないでしょう。
すでに多くの企業が、社員からAIに置き換えを進めています。

ここで、担当していた事務作業をAIにやってもらうことになった会社員Bさんがいます。
数ヶ月前から導入は決まっており、移行はスムーズに進みました。
AIがやる方が、早く、大量に案件が処理できる業務だったためです。

Bさんは幸運なことに解雇にはならず、社員のままでした。
しかし、社内で新しい業務に就く必要があります。

労働力としてのBさんとAI
「社員Bさん」は、会社に対して労働力を提供する代わりに、会社から給料をもらう存在です。社員=労働力としてBさんに求められているのは、会社に利益をもたらすかどうかの一点です。
それ以外の「Bさんらしさ」は、ハッキリ言って必要ありません。
・何か資格を持っているか
・組織運営に有意義な活動をしてきたか
くらいは考慮されますが、それでも組織人=労働力として役立つかどうかを判断されているに過ぎません。Bさんが大好きな歌手のライブに行けてどれくらい感動したかは、Bさんが所属する会社には関係のない項目として、大抵の場合無視されます。
しかし、労働力と言っても人間です。職場での人間関係を、全く無視するわけにはいきません。Bさんには、職場内でもあまり会話したくない人もいます。
またBさんは当然の権利として有給を取ったり病欠したりすることがあります。が、会社としては「ない方が嬉しい」権利です。
一方で、AIには「AIらしさ」などありません。
明日から来なくなるとかパワハラを訴訟されるとかいう事案もないのです。
仕組みがしっかりルール化できる事務作業には、BさんよりもAIを配置する方が適切です。

人間は、AIにとってどんな存在であるべきか
AIがきたから、明日からこなくていいよ、とは中々言われないのが日本の会社風土の良いところです。もちろん、「明日」が来る前に準備しておかければ結果は同じです。
Bさんがこの先も「労働力」として生き残るためには、会社に導入されたAIではカバー出来ない部分で能力を発揮することが必要になります。
例えば、
・AIが作業してまとめた大量のデータを活用して会社に利益をもたらす。
・取引先にAIの作った定型文ではなく、手書きのお礼状を郵便で送る。
・社内の声を丁寧に拾って、新しい業務改善案を考える。
などです。

仕事で利益を上げるために、AIにどんな指示を出すか。
どうすれば仕事で関わる人たちが充実した気持ちになり、満足するのか。

これからのBさんには、そんな問題に対する発想力が求められることになります。

「今までそんなこと考えてこなかった自分には、無理だ。」
という不安もBさんにはありました。
しかし、AIが本格稼働すると、それまでBさんのやり方で慣れていた別の社員たちからの質問が相次ぎました。結局、職場の皆がAIに慣れるまでの間、Bさんがエンジニアと他の社員の間に入り、今までとこれからの違いを説明し続けることになりました。
Bさんの説明は丁寧だったので、いつの間にか「AIのことを聞くならBさん」という風に社内で広まります。それがまた、「AIを使ったプレゼンならBさん」になり、「AIが使えるBさん」という評価を得ることになります。AIに事務作業の仕事が奪われたと思ったら、AIと他の社員を繋ぐ重要な存在であるかのように見られ始めたのです。
役割を期待されると、人はそれに影響をうけ、パフォーマンスが変化します。
にわかでも、AIの社内専門家として扱われたBさん。
その後は、AIを活用したプロジェクトの社内公募を取りまとめる新しい仕事を任されることになります。AIが導入されたことで一時は仕事がなくなったBさんは、無事社内で新しい業務につくことができました。
もしAIが導入されなければ、起こらなかった現象です。

労働力の質的な変化

「資本主義社会に必要な労働力、会社のリソースとしての社員」という望まれた役割をこなすことはもちろん大切でしょう。しかし、AIが単純作業を担ってくれる未来では、人間の労働力に大きな変化が求められます。問題を自ら発見し、解決する力を磨いていきましょう。毎日単調な作業をこなしている「自分」が、自分の一面にすぎないことを忘れないようにしましょう。

MonAmie